イスラエル・イラン“6日戦争”はなぜ起こったのか? 見過ごされがちな宗教的・歴史的要因と、トランプとイランの最大のディールとは【中田考】
イスラエル・イラン戦争を理解するために。トランプによる「強引な停戦」は今後どうなるか?
10. イスラエル国とイラン・イスラーム共和国の抱える共通の問題
実は現在のユダヤ人国家イスラエルと12イマーム派国家イランの間には共通点があります。それは両者ともに歴史の大半を、領土内で絶対的な権力を持つマジョリティーとなる独立国家を持った経験がなかったのが歴史上始めて強国となった、ということです。つまり宗教的被抑圧者が、国家権力を握ったことで歯止めが利かない拡張主義に陥ったと言うことです。
11. イランとイスラエルの宗教的正統性と主権国家の逆説
宗教的マイノリティが長い迫害の歴史を経て主権国家を獲得するという過程は、正義と回復の美談として語られがちです。しかし、かつての「被害者」が領域国民主権国家の権力という人類史上最大の暴力装置を手にしたとき、何が起きるのでしょうか。この問いは、現代中東を代表する二大強国――イランとイスラエル――の宗教的・政治的構造において、極めて示唆的な形で浮かび上がります。いずれも長期にわたる宗教的被抑圧の経験を共有しつつ、20世紀後半に国家権力を獲得したこれらの主体が、いかにしてその歴史的トラウマと主権的現実を結びつけ、今日の拡張主義的政策へと接続させているのかを考察することは、宗教と国家、記憶と暴力の関係を読み解く鍵となります。
12. 12イマーム派シーア派の迫害の歴史
イスラーム世界において多数派を占めるスンナ派に対し、12イマーム派シーア派は預言者ムハンマドの正統な後継者としてアリーとその子孫(イマーム)を位置づける信仰を保持してきました。しかし歴代のスンナ派政権下では政治的・宗教的異端と見なされ、しばしば弾圧の対象となりました。特に680年のカルバラーにおけるフサインの殉教は、シーア派共同体にとって「正義の殉教」として深く記憶され、以後の体制批判的な宗教性の根幹となりました。中世・近世にかけても、オスマン帝国をはじめとするスンナ派主流の支配体制下で、礼拝・布教・教育の自由は制限され、時に流血を伴う弾圧が繰り返されました。こうした歴史的経験は、シーア派にとって、イマームの「隠れ(ガイバ)」と再臨を待望する終末論的信仰や、殉教を美化する倫理を育む土壌となり、国家と距離を置いた共同体的自律性と反体制性を同時に強化することになりました。
13. ラビ・ユダヤ教のディアスポラとしての被抑圧史
ユダヤ教もまた、第二神殿の崩壊(紀元70年)を契機として離散(ディアスポラ)の運命をたどり、約二千年にわたって主権を持たぬ宗教共同体として各地で抑圧を受け続けてきました。特にキリスト教世界においては、神の敵・異端者としての烙印を押され、改宗強制、ゲットーへの隔離、経済的排斥、周期的な迫害(ポグロム)など、構造的暴力の対象とされました。近代ヨーロッパの市民革命と世俗化の波に乗じて一定の法的平等を得ましたが、19世紀後半以降のナショナリズムの高まりの中で反ユダヤ主義は再び顕在化し、最終的にはナチス・ドイツによるホロコーストという極限的な破滅を経験するに至りました。このような歴史は、ユダヤ人共同体の中に「選民としての受難」と「正義の記憶」、そして「民族的国家再建」への熱望を強く刻み込みました。そしてラビ・ユダヤ教は共同体内の法的・教育的秩序を構築すると共にマイノリティーとして自治を守る生存術を神学的・倫理的に洗練させていったのです。
KEYWORDS:
オススメ記事
-
「小池百合子」はカイロ大学を卒業しているのか? 「学歴詐称の真偽」に白黒つける【中田考】
-
タリバン(アフガニスタン・イスラーム首長国)のカーリー・ディーン・ムハンマド経済大臣に単独インタビュー「アフガンは米国と中国、どちらを選ぶか?」
-
国際社会がタリバンをテロリスト指定するのは、なぜ間違っているのか?【中田考】
-
〝ジャングリア、オープン2日目でスパ・アトラクションのほとんどが利用不可に!〟 返金も不可、200件以上の星1コメントに不自然な星5レビュー連続投下の闇【林直人】
-
【特報】“地獄のテーマパーク”ジャングリア――詐欺まがい広告、予約システム崩壊、雑踏地獄…なぜ政府は黙殺したのか【林直人】